今回の台湾・選挙の注目点
まず私が真冬の台湾(気候が不安定で、体調を崩しやすい)にあえて行くことにしたのか…その理由はもちろん8年ぶりの政権交代が極めて高くなる中で、台湾での選挙を体感しようと思ったのである。すでに調査データから総統には民進党候補である党主席である蔡英文氏がなることはほぼ確実であることは分かっていた。問題は国民党の負け方である。2016年5月まで任期がある馬英久中華民国総統が最後の1年間で自らの信念である中国との関係強化による景気復活策を積極的に推し進め、南部を中心に反対運動がおこりながら(南部は農業エリアであり、中国関係の強化による農産物輸入で最も大きな影響を受けることに対し、根底的に拒否反応を示した)、その世論を無視し、大陸との関係を推し進めた(2015年11月には中国輸出入関係の強化を発表した日、政治には距離をおいていた軍隊のうち、空軍が台南近郊の空軍基地からF16を終日離陸し、その総統の意志への異議申し立てとも思える行動をとっていた)。本来、与党を支持するはずの軍隊がこの2年、一環して与党政権に距離をおいた(軍隊内の虐め自殺事件、空軍パイロットの財閥令嬢とのスキャンダルなどが起こり、台湾の住民の軍隊への視線が冷たくなったこともあるが)。それは台湾では重要なことである。従来、軍隊の趨勢が政治に極めて大きな影響を与えてきたからである。その現実を理解した台湾選挙民(元々、台湾人は軍隊に対し冷淡な視線を向けていた)がどこまで反・国民党を選ぶか、それがこの後の台湾政治に大きな影響を与えると読解していたのだ。
もう一つ、事前の調査で国民党があまりの不人気で候補を新北市市長である朱立倫氏に急遽、差し替えたこともある。朱前・国民党主席は大陸出身系(この辺りの概念規定は難しいので別の機会に考えてみることにする)ではあるが、台湾で生まれ育ったエリートである。他方、民進党の蔡英文氏ももともと国民党政権内で技術系エリートとして活躍(李登輝主席の時代であるが。ちなみに馬総統は当時、秘書官を担当していた)、その後、民進党に合流した、政治・官僚制度を知り尽くした人物である。その意味では、台湾現代史においてはじめて極めて高い政治手腕を持つ台湾人同士の総統選挙になるのだ。同時に行われる立法院議員選挙(1院政なので、日本でいえば国会そのものを選ぶことになる)でどのような結果が出るかも注目である。総統が円滑な政権運営を行うためには立法院で過半数を獲得するのが必須だ。16年前の陳水扁総統時代、円滑に政権を運営できなかった理由のひとつには、徹底した国民党立法院議員(さらに大陸出身者の老人たちで形成され、結果として改正選挙ができなくなった国民大会の存在もあった)の抵抗があったからである。国民党にとっては過半数を割ったとしても、できるだけ過半数に近い議席を確保すること、つまり政治に影響力を温存することが重大だった。
さらにもう一つ、新党の可能性である。2014年4月のひまわり学生運動の指導者グループが「時代力量」などの新党を結成し、一定以上の活躍が見込まれたことがある。これは安保関係法で抗議運動を展開していたSEALSが市民連合を結成し、国政に影響力を行使しようとしていることにも似ているかもしれない。ただし、ひまわり学生運動の実務の指導者二人のうち、一人はセクハラ・スキャンダルで2014年11月の立法院議員補選への立候補を断念。もう一人も政治とは異なる道にすすんだ。今回の新党ではこの民主主義運動の理論を構築した社会運動家である、若い学者が党首になっている。そのため、この新党から出馬した候補はひまわり学生運当事者というより過去に民主化運動などの活動を行っていた人々、軍隊内でのいじめ自殺事件で弟を失った後、一貫して糾弾活動を続けていた人物、さらにヘビーロッカーとして活躍しながら、同時にアムネスティ・インターナショナル台湾支部長を担う人物などと、情報だけだと実に多岐にわたる経歴と実績を積んだ人々が立候補していた。
彼らは民進党と協議、総統候補に関しては民進党を支持、台北市、新北市などの国民党が強い選挙区に立候補、そこでの戦いで比例区での議席獲得を目指し、存在感をアピールするという戦術を取った(これが見事に決まり、選挙区、比例区合わせて5人が当選した)。その活躍の度合いと選挙運動も注目していた。
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